明も木蘭地《もくらんじ》の直垂《ひたたれ》に紺糸の下腹巻をして、中黒藤《なかぐろとう》の弓を持って控えていた。三浦の党は上洛以来きょうが初めての勤めであるので、彼も家来どもも勇気が満ちていた。千枝太郎に折らせた新しい烏帽子の緒を固く引きしめて、小源二も大きい長巻《ながまき》を引きそばめていた。
この物々しい警固のなかを分けて、泰親の群れは昼でも薄暗い森の奥へはいった。邪魔になる立ち木は武士どもに伐り倒されて、そこには祈祷の壇が築かれた。陰った秋の空は低くたれて、森には鳥一羽の鳴く声もきこえなかった。
壇に登ったのは河原の祈祷とおなじように四人であった。彼らはやはり五色《ごしき》に象《かたど》った浄衣《じょうえ》をつけていた。泰親の姿は白かった。落葉に埋められた円い古塚を前にして、祈祷は午《うま》の刻(正午十二時)から始められたが、それが息もつかずに夜まで続いたので、そこらには篝火《かがりび》が焚かれた。木の間へ忍び込む夜風にその火がゆれなびいて、五色の影を時どきに暗く隠すかと思うと、又明かるく浮き出させるのも物凄かった。警固の人びとも草も木も息をひそめて、このすさまじい祈祷の結果をうかがっているらしかったが、夜の亥《い》の刻(午後十時)を過ぎた頃に、梢をゆする夜風がひとしきり烈しく吹いて通ったかと思うと、今まで黙っていた古塚が地震《ないふる》ようにゆらゆらと揺るぎ出した。
この時である。壇のまん中に坐っていた泰親は忽ち起《た》ち上がって、ひたいにかざしていた白い幣を高くささげながら、塚を目がけて礑《はた》と投げつけると、大きい塚はひと揺れ烈しくゆれて、柘榴《ざくろ》を截《た》ち割ったように真っ二つに裂けた。
殺生石《せっしょうせき》
一
その夜であった。
関白の屋形には大勢の女房たちがあつまって、玉藻の前を中心に歌の莚《むしろ》が開かれていた。あしたは十三夜という今夜の月は白い真玉《またま》のように輝いて、さすがに広いこの屋形も小さく沈んで見えるばかりに、秋の夜の大空は千里の果てまでも高く澄んで拡がっていた。
今夜の題は「月不宿《つきやどらず》」というのであった。この難題には当代の歌詠みと知られた堀川や安芸や小大進《こだいしん》の才女たちも、うつむいた白い頸《うなじ》を見せて、当座の思案に打ち傾いていた。一座はしわぶきの声もなくて、鳴き弱
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