《さんもん》と三井寺とは年来の確執じゃ。その三井寺に参詣して法師ばらを唆《そその》かし、世の乱れを起こそうとてか」と、頼長は何事も見透かしたようにあざ笑った。「さりながらこれは大事じゃ。山門の荒法師も手をつかねて観てもいるまい。又しても山門と三井寺の闘諍《とうじょう》、思えば思えば浅ましさの極みじゃ」
 叡山《えいざん》と三井寺の不和は多年の宿題で、戒壇建立の争いのためには三井寺の頼豪阿闍梨《らいごうあじゃり》が憤死して、その悪霊が鼠になったとさえ伝えられている。その三井寺へ魔女の玉藻が参詣して、いかなる禍いの種を播《ま》こうとするのか。
 しょせんは三井寺の僧徒を煽動して叡山に敵対させ、かれらを執念く啖《く》い合わせて、仏法の乱れ、あわせて王法の乱れを惹き起こす巧みであろう。こう思うと、信西の嶮しい眉も食い入るばかりに顰《ひそ》んできた。
「彼女《かれ》の悪業、いやが上に募ってまいっては、いよいよ油断がなり申さぬ」
「そうじゃ。まだこの上に何事をたくもうも知れぬ」と、頼長も奴袴《ぬばかま》の膝を強く掴んだ。「のう、入道。この上は重ねて七十日の祈祷《いのり》などおめおめと待ってはいられまい。泰親にもその旨を申し含めて、早急にかれめを祈り伏する手だてが肝要であろうぞ」
 この点に就いては、信西も勿論、同意であった。
「仰せごもっとも、それがしも肝胆を砕いて、一日も早く妖魔をほろぼす手だてを案じ申そうよ」

    二

 八月十一日は晴れていた。それでも先日の大雨以来、明るい日の色も俄に秋らしくなって、藍《あい》を浮かべたような湖《みずうみ》の上を吹き渡って来る昼の風も、たもと涼しくなった。
 青糸毛《あおいとげ》の牛車《くるま》が三井寺の門前にしずかに停まると、それより先きに紫糸毛の牛車が繋がれていた。あとから来た青糸毛のうしろに、黒塗りの鷺足の榻《しい》が据えられて、うしろ簾《すだれ》がさやさやと巻きあげられると、内から玉藻の白い顔があらわれた。折りからそよそよと吹いて来る秋風に袴の緋を軽くなびかせて、彼女は牛車からしなやかに降り立つと、門前にたたずんでいた一人の侍がつかつかと歩み寄って来た。侍は藤内兵衛遠光であった。
「お身は三井寺御参詣か」と、遠光は会釈しながら訊いた。
 玉藻の供の侍には遠光を見識っている者どももあった。関白家御代参として玉藻が参詣を彼らが答
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