もと雨を祈っているのでないことを承知している彼らは、雨の降らないのをむしろ当然に思っているくらいであった。
泰親も四人の弟子もきょうの空と同じように鎮まり返って祈りつづけていた。彼らはまじろぎもしなかった。風のない壇の上に五色の幣はそよりとも動かなかった。河原一面の日に照らされながら、公家も侍も息をつめて控えていた。
やがて午の刻が来た。岸の上で一度に洩らす失望の溜息が夕立のように聞こえ出した。
「もう詮《せん》ない、時刻が来た」
「いかに神《かみ》がみを頼んでも、降らぬ雨は降らぬに決まったか」
「いや、まだ力を落とすまい。午を過ぎたら玉藻の前の祈りじゃというぞ」
「播磨守殿すらにも及ばぬものを、女子《おなご》の力でどうあろうかのう」
「かの御《ご》は知恵も容貌《きりょう》も世にすぐれたお人で、やがては采女に召さりょうも知れぬという噂がある。その祈祷じゃ。神も感応ましまそうも知れまい」
噂のぬしは午の刻を合図に、その優艶な姿を河原にあらわした。玉藻もきょうは晴れやかに扮装《いでた》っていた。彼女は漆《うるし》のような髪をうしろに長くたれて、日にかがやく黄金《こがね》の釵子《さいし》を平びたいにかざしていた。五つ衣《ぎぬ》の上衣《うわぎ》は青海波《せいがいは》に色鳥の美しい彩色《つくりえ》を置いたのを着て、又その上には薄萌黄《うすもえぎ》地に濃緑《こみどり》の玉藻をぬい出した唐衣《からごろも》をかさねていた。彼女は更に紅打《べにう》ちの袴をはいて、白地に薄い黄と青とで蘭菊の影をまぼろしのように染め出した大きい裳《も》を長く曳いていた。あっぱれ采女のよそおいである。頼長はそれをひと目見て、彼女の僭上《せんじょう》を責めるよりも、こうした仰々《ぎょうぎょう》しい姿にいでたたせた兄忠通の非常識に対して十二分の憤懣《いきどおり》を感じた。
しかし今はそれを論議している場合でないので、頼長も信西も黙ってその成り行きをうかがっていると、玉藻は関白家の侍どもに護られて、しずかに壇のそばへ歩み寄ったかと思うと、彼女はたちまち顔色を変えた。彼女はなんにも言わずにそのまま引っ返そうとした。
「玉藻の御《ご》、お待ちゃれ」
泰親は壇の上から声をかけた。これを耳にもかけない様子で、玉藻はあくまでも引っ返して行こうとするらしいので、堪えかねて頼長も呼び止めた。
「玉藻、なぜ戻る。午の
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