《きじょ》のように、彼女は薄絹の被衣《かつぎ》を眉深《まぶか》にかぶって、屋形の四足門からまだ半町とは踏み出さないうちに、暗い木の蔭から一人の大きい男が衝《つ》と出て来て、渡辺の綱のように彼女の腕をしっかりと掴んだ。
「あれ」
振り放そうともがいても、男はなかなかその手をゆるめなかった。彼は小声に力をこめて言った。
「騒がれな、玉藻の前。暗うても声に覚えがござろう。われらは実雅じゃ」
「おお。少将どのか」と、玉藻はほっとしたらしかった。「わたくしは又、鬼か盗人かと思うて……」
「その鬼よりも怖ろしいかもしれぬぞ」と、実雅は暗いなかであざ笑った。「お身はこの宵にどこへ参らるる」
玉藻は立ちすくんで黙っていた。
「法性寺詣でか、兼輔と連れ舞うて……。はは、何をおどろく。お身たちのすること為《な》すこと、この実雅の耳へはみな筒抜けじゃ。われらが今宵、大納言|師道《もろみち》卿の屋形へ歌物語を聴きにまいろうと存じて、四条のほとりへ来かかると、兼輔めが人待ち顔にたたずんでいる。何してじゃと問えば、これから法性寺へ叔父御の見舞いにゆくという。その慌てた口ぶりがどうやら胡乱《うろん》に思われたので、五、六間も行き過ぎて又見返ると、彼はまだ行きもやらじに立ち明かしている。さてはここに連れの人を待ち合わせているのかと思うと、すぐに覚ったは玉藻の御《ご》、お身のことじゃ。それから足を早めてここの門前へ来て、さっきから出入りを窺うていたとは知らぬか。さあ真っ直ぐに言え、白状せられい」と、実雅ははずむらしい息を努めて押し鎮めて、女の細い腕を揺すぶりながら訊いた。
「そう知られては隠しても詮《せん》ないこと。まこと今宵は左少弁殿と言いあわせて、法性寺詣でに忍び出たに相違ござりませぬ」
「むむ。相違ないか」と、大きいからだをふるわせて実雅は唸った。「お身は先月も兼輔めと連れ立って法性寺へまいったというが、確かにそうか」
それも嘘ではないと玉藻は答えた。しかしそれは隆秀阿闍梨の教化をうけたいために兼輔の案内を頼んだので、ほかには別に子細はないと言ったが、実雅は素直にそれは肯《き》き入れなかった。現にこのあいだの花の宴《うたげ》にも、自分は彼と玉藻との密会を遠目に見ている。今更そんなあさはかな拵え事で、自分を欺くことはできまいと又あざ笑った。
「就《つ》いては、少将実雅があらためてお身に訊き
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