叔父さんの話をしろよ。」と、※[#「さんずい+(廣−广)」、第3水準1−87−13]南はうながした。
「はあ。」
有年はまだ渋っているらしかった。有年の叔父という人は若いときから放蕩者で、屋敷を飛び出して何かの職人になっているとかいう噂を馬琴もたびたび聞いているので、その叔父について何か語るのを甥の有年もさすがに恥じているのであろうかと思いやると、馬琴もすこし気の毒になった。上野の五つ(午後八時)の鐘がきこえた。
「おお、もう五つになりました。」と、馬琴は帰り支度にかかろうとした。
「いや、まだお早うございます。」と、有年は押し止めた。「今もここの主人に言われたのですが、実はわたくしの叔父について一つの不思議な話があるのを、今から五年ほど前に初めて聴きました。まことにお恥かしい次第ですが、わたくしの叔父というのは箸にも棒にもかからない放蕩者で、若いときから町屋《まちや》の住居をして、それからそれへと流れ渡って、とうとう左官屋になってしまいました。それでもだんだんに年を取るにつれて、職もおぼえ、人間も固まって、今日《こんにち》ではまず三、四人の職人を使い廻してゆく親方株になりましたので
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