(羽左衛門の父)が大内蔵、福助(歌右衛門)が小染を勤め、これも役々の評判がよかった。取り分けて菊五郎は主人公の藤吉郎よりも、二タ役の馬丁幸吉の方が好評で、五幕目小村井梅屋敷の場で主人の跡部甲斐守(松助)に嚇されたり賺《すか》されたりして、藤吉郎の秘密を口外する件りは、松助の跡部と共に大当たりであった。但しこの狂言も春木座が先きで、歌舞伎座はあとである。
「三組盃」の作者はやはり三代目新七であったが、大切《おおぎり》の浄瑠璃に「奴凧」が上演された。この浄瑠璃が黙阿弥の絶筆である。菊五郎が奴凧を勤めるに就いて、座方では去年の「牡丹燈籠」以上の宣伝法を案出し、一月六、七日の両日、浅草の凌雲閣、新橋の江木の塔、芝愛宕山の愛宕館の三カ所から歌舞伎座の印を捺した奴凧数百枚を放ち、それを拾って来たものには無料《ただ》で見物をさせることにした。
「塩原多助」が当たり、次いで「牡丹燈籠」が当たり、更に「三組盃」が当たったので、盆と正月には寄席の読み物に限るという風になって、その七月の歌舞伎座では、又もや円朝の安中草三《あんなかそうざ》を上演することになった。作者は三代目新七、名題は「榛名梅香団扇画《はる
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