ざいます。
半七 実は唯今この町内の角でお店の長次郎さんに逢いましたが、なんだか息を切って駈けてくる様子が変ですから、どうかしたのかと聞いてみると、初午のお芝居から飛んだ間違いが出来ましたそうで……。わたくしもびっくり致しました。して、怪我人はどんな様子です。
与兵衛 (少し迷惑そうに。)長次郎めがおしゃべりを致して、なにもかも御承知とあれば、今更かくし立ては致しません。思いもよらない間違いから、せがれはこの通りでございます。
半七 まっぴら御免くださいまし。
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(半七は角太郎のそばに進みより、声をかける。)
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半七 もし、若旦那。気は確かですかえ。
与兵衛 さっきから何を申しても返事はございません。
半七 そうですか。困ったものだな。(角太郎の疵をあらためる。)そうして、その刀というのはどれですね。
庄八 これでございます。(血に染みた刀をみせる。)
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(半七は無言で刀をうけ取り、燭台の灯に照らして見て、やがて一座の人々の顔をずらりと見わたす。人々は何となく薄気味悪いように
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