(与兵衛に。)まあ、おまえさん。そんなことを云っているよりも、早く角太郎の手当てをしてやったらどうです。なんだか息づかいがだんだんにおかしくなるじゃありませんか。
与兵衛 (気がついて。)むむ、うかうかしてはいられない。これ、医者を呼びにやったか。
庄八 はい。さっきから二度も呼びにやりました。
おさき 呼びにやったらすぐに来てくれそうなものだがねえ。手間が取れるようならほかのお医者を呼んでおいでよ。ぐずぐずしていると、間にあわないじゃあないか。
与兵衛 誰でもかまわないから、すぐに来てくれる医者を呼んで来い。三人でも五人でも十人でも一度に呼んで来い。早くしろ。早くしろ。なにをぼんやりしているのだ。
店の者 はい、はい。行ってまいります。
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(若い者のひとりは下のかたへ駈けてゆく。)
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与兵衛 ああ、こうと知ったら今年の初午などはいっそ止めればよかった。
おさき 初午もお祭だけにして、芝居などをしなければよかったのでしたねえ。
与兵衛 それも角太郎が先立ちになって騒ぎはじめたのだ。(角太郎を覗いて。)ああ、どうもだんだ
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