ている。)
おさき あとで女中をよこすから、なんでも用があったら遠慮なくお頼みよ。
お冬 ありがとうございます。
おさき (いじらしそうに見て。)いいかえ。もうお泣きでないよ。風があたるからここの障子は半分閉めて置こうね。
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(おさきは縁側の障子を半分しめて奥に入る。お冬はひとりで泣きながら薬をのむ。庭口より和吉が忍んで出で、あと先を見まわしながら縁先に来る。)
[#ここで字下げ終わり]
和吉 (小声で。)お冬どん、お冬どん。
お冬 誰。和吉さんかえ。
和吉 (やはり小声で。)だれもいないね。
お冬 おかみさんが出ておいでなすったけれど……。今は誰もいませんよ。
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(和吉は縁側ににじり[#「にじり」に傍点]上がり、障子をそっと明けてのぞく。)
[#ここで字下げ終わり]
和吉 まだ頭が重いかえ。
お冬 いそがしい中をたびたびお見舞に来てくれて有難うございます。
和吉 大旦那やおかみさんも心配していなさるから、早く癒らないじゃあいけないぜ。
お冬 あい。
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