であった。
 姉はお政といって二十二、妹はお時といって十九、容貌《きりょう》は可もなく、不可もなく、まず普通という程度であるが、髪の結い方、着物の好みが余りに派手やかで、紅|白粉《おしろい》を毒々しいほどに塗り立てた化粧の仕方が、どうしても唯の女とは見えない。勿論、旅館も客商売であるから、その娘たちが相当に作り飾っているのは当然でもあろうが、この姉妹《きょうだい》の派手作りは余りに度を越えている。旧家を誇り、手堅いのを自慢にしている此の旅館の娘たちとはどうしてもうけ取れない。そこらの曖昧《あいまい》茶屋に巣くっている酌婦のたぐいよりも醜《みにく》い。天草《あまくさ》あたりから外国へ出稼ぎする女たちよりも更に醜い。くどくも言う通り、主人も奉公人もみな正直で行儀のいい此の一家内に、どうしてこんなだらしの無い、見るから淫蕩《いんとう》らしい娘たちが住んでいるのかと、わたしは不思議に思った位であった。
 残暑の強い時節といい、旧盆に相当しているせいか、ここらの旅館に泊り客は少なく、最初の二、三日は私ひとりであったが、その後に又ひとりの客が来た。それは大阪辺のある保険会社の外交員で、時どきにここ
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