飛ぶようにみだれて見えた。
こうして震動をくり返すからは、おそらく第一回以上の烈震はあるまいという安心と、我も人もいくらか震動に馴れて来たのと、震動がだんだんに長い間隔を置いて来たのとで、近所の人たちも少しくおちついたらしく、思い思いに椅子や床几《しょうぎ》や花莚などを持ち出して来て、門のまえに一時の避難所を作った。わたしの家でも床几を持ち出した。その時には、赤坂の方面に黒い煙がむくむくとうずまき※[#「風にょう+昜」、第3水準1−94−7]《あが》っていた。三番町の方角にも煙がみえた。取分けて下町方面の青空に大きい入道雲のようなものが真白にあがっているのが私の注意をひいた。雲か煙か、晴天にこの一種の怪物の出現を仰ぎみた時に、わたしはいい知れない恐怖を感じた。
そのうちに見舞の人たちがだんだんに駈けつけて来てくれた。その人たちの口から神田方面の焼けていることも聞いた。銀座通りの焼けていることも聞いた。警視庁が燃えあがって、その火先《ほさき》が今や帝劇を襲おうとしていることも聞いた。
「しかしここらは無難で仕合せでした。殆ど被害がないといってもいいくらいです」と、どの人もいった。まっ
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