。「それが二人ながらちっとも違わないのです。弁天さまが染吉とお照の枕元へあらわれて、境内の柳の下を掘ってみろ。そこには古い鏡が埋まっている。それを掘出したものは自分の願《がん》が叶うのだというお告げがあったそうです。そこで、あくる晩、染吉はお座敷の帰りに冬坡をよび出して、これから一緒に弁天さまへ行ってくれと無理に境内へ連れ込んで、一本の柳の下を掘っているところへ、あなたとわたくしが来かかったので、染吉はあわてて祠のうしろへ隠れてしまって、冬坡だけがわれわれに見付けられたのです。常夜燈を消して置いたのも染吉の仕業で、何分あたりが暗いので、そこらに染吉の隠れていることは一向気が付きませんでした。われわれが立去ったあとで、染吉が再び掘ろうとしたのですが、冬坡がスコープを持って行ってしまったので、仕方がなしに帰って来たそうです。」
「お照は掘りに来なかったのだね。」
「お照がなぜすぐに来なかったのか、その子細はわかりません。商売が商売ですから、その晩はどうしても出られなかったのかも知れません。それでも次の日、すなわち昨日の夕方に冬坡を呼び出して、やはり一緒に行ってくれと言ったそうですが、冬坡は
前へ 次へ
全25ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング