あらわれてきました。と申したら、大抵御推量もつきましょうが、それはかの清月亭のお照で、もちろん染吉との関係を知らないで、だんだんに冬坡の方へ接近してきて、これも去年の冬頃から関係が出来てしまったのです。こう言うと、冬坡ははなはだふしだらのようにも聞えますが、何分にもああいう気の弱い男ですから、女の方から眼の色を変えて強く迫って来られると、それを払いのけるだけの勇気がないので、どっちにも義理が悪いと思いながら、両方の女にひきずられて、まあずるずるにその日その日を送っていたという訳です。
しかし、それがいつまでも無事にすむはずがありません。去年の暮に、冬坡のおふくろが風邪をひいて、冬至《とうじ》の日から廿六日頃まで一週間ほど寝込んだことがあります。そのときに染吉とお照とが見舞に来て……。どちらも菓子折かなにかを持ってきて、しかも同時に落合ったものですから、はなはだ工合の悪いことになってしまいました。どうもひと通りの見舞ではないらしいと染吉も睨む、お照も睨む。双方睨みあいで、そのときは何事もなく別れたのですが、二人の女の胸のなかに青い火や紅い火が一度に燃えあがったのは判り切ったことです。
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