それでは詰まらないと引っ返した。
 いよいよ発掘に取りかかる頃には細かい雨がぱらぱらと降り出して来た。まず周囲の芒《すすき》や雑草を刈って置いて、それからあの四角の石を掘り起すと、それは思ったよりも浅かったので比較的容易に土から曳き出されたが、まだそのそばにも何か鍬《くわ》の先にあたるものがあるので、更にそこを掘り下げると、小さい石の狛犬《こまいぬ》があらわれた。それだけならば別に子細もないが、その狛犬の頸《くび》のまわりには長さ一間以上の黒い蛇がまき付いているのを見たときには、大勢も思わずあっ[#「あっ」に傍点]と叫んだそうだ。
 蛇はわずかに眼を動かしているばかりで、人をみて逃げようともせず、あくまでも狛犬の頸を絞め付けているらしく見えるのを、大勢の鍬やショベルで滅茶滅茶にぶち殺してしまった。生捕りにすればよかったとあとでみんなは言っていたが、その一刹那には誰も彼もが何だか憎らしいような怖ろしいような心持になって、半分は夢中で無暗にぶち殺してしまったということだ。
 狛犬が四角の台石に乗っていたことは、その大きさを見ても判る。なにかの時に狛犬はころげ落ちて土の底に埋められ、その台石
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