ると、何がなんだか判らなくなる。
 さらに一つの問題は、Mという中学教員が腰をかけて死んでいた石と、辰子が腰をかけて死んでいた石とが、あたかも同じ石であったということだ。そのあたりには幾つかの石が転がっているのに、なぜ二人ともに同じ石を選んだかということが疑問の種になった。
 誰の考えも同じことで、それが腰をおろすのに最も便利であったから二人ながら無意識にそれを選んだのだろうといってしまえば、別に不思議もないことになるが、どうもそれだけでは気がすまないとみえて、村の人たちは相談して遂にその石を掘り出すことになった。石が啼くという噂もある際であるから、この石を掘り起してみたらば、あるいは何かの秘密を発見するかも知れないというので、かたがたその発掘に着手することに決まったらしい。
 当日は朝から曇っていたが、その噂を聞き伝えて町の方からも見物人が続々押出して来た。村の青年団は総出で、駐在所の巡査も立会うことになった。僕も行ってみようかと思って門口《かどぐち》まで出ると、あまりに混雑しては種々の妨害になるというので、岡の中途に縄張りをして、弥次馬連は現場へ近寄せないことになったと聞いたので、
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