い草が、南の方からだんだん生えて、たうとうそこらいつぱいになり、それから柏《かしは》や松も生え出し、しまひに、いまの四《よ》つの森ができました。けれども森にはまだ名前もなく、めいめい勝手に、おれはおれだと思つてゐるだけでした。するとある年の秋、水のやうにつめたいすきとほる風が、柏の枯れ葉をさらさら鳴らし、岩手山の銀の冠には、雲の影がくつきり黒くうつゝてゐる日でした。
四人の、けら[#「けら」に傍点]を着た百姓たちが、山刀《なた》や三本鍬《さんぼんぐは》や唐鍬《たうぐは》や、すべて山と野原の武器を堅くからだにしばりつけて、東の稜《かど》ばつた燧石《ひうちいし》の山を越えて、のつしのつしと、この森にかこまれた小さな野原にやつて来ました。よくみるとみんな大きな刀もさしてゐたのです。
先頭の百姓が、そこらの幻燈のやうなけしきを、みんなにあちこち指さして
「どうだ。いゝとこだらう。畑はすぐ起せるし、森は近いし、きれいな水もながれてゐる。それに日あたりもいゝ。どうだ、俺《おれ》はもう早くから、こゝと決めて置いたんだ。」と云《い》ひますと、一人の百姓は、
「しかし地味《ちみ》はどうかな。」と言ひ
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