た近くの青ぐろいうすあかりが、障子や棚《たな》の上のちょうちん箱や、家じゅういっぱいでした。一郎はすばやく帯をして、そして下駄《げた》をはいて土間をおり、馬屋の前を通ってくぐりをあけましたら、風がつめたい雨の粒といっしょにどっとはいって来ました。
馬屋のうしろのほうで何か戸がばたっと倒れ、馬はぶるっと鼻を鳴らしました。
一郎は風が胸の底までしみ込んだように思って、はあと息を強く吐きました。そして外へかけだしました。
外はもうよほど明るく、土はぬれておりました。家の前の栗《くり》の木の列は変に青く白く見えて、それがまるで風と雨とで今|洗濯《せんたく》をするとでもいうように激しくもまれていました。
青い葉も幾枚も吹き飛ばされ、ちぎられた青い栗のいがは黒い地面にたくさん落ちていました。空では雲がけわしい灰色に光り、どんどんどんどん北のほうへ吹きとばされていました。
遠くのほうの林はまるで海が荒れているように、ごとんごとんと鳴ったりざっと聞こえたりするのでした。一郎は顔いっぱいに冷たい雨の粒を投げつけられ、風に着物をもって行かれそうになりながら、だまってその音をききすまし、じっと空を
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