まわしました。嘉助は水を飲んだと見えて、霧をふいてごぼごぼむせて、
「おいらもうやめた。こんな鬼っこもうしない。」と言いました。小さな子どもらはみんな砂利《じゃり》に上がってしまいました。
 三郎はひとりさいかちの木の下に立ちました。
 ところが、そのときはもうそらがいっぱいの黒い雲で、楊《やなぎ》も変に白っぽくなり、山の草はしんしんとくらくなり、そこらはなんとも言われない恐ろしい景色にかわっていました。
 そのうちに、いきなり上の野原のあたりで、ごろごろごろと雷が鳴り出しました。と思うと、まるで山つなみのような音がして、一ぺんに夕立がやって来ました。風までひゅうひゅう吹きだしました。
 淵《ふち》の水には、大きなぶちぶちがたくさんできて、水だか石だかわからなくなってしまいました。
 みんなは河原から着物をかかえて、ねむの木の下へ逃げこみました。すると三郎もなんだかはじめてこわくなったと見えて、さいかちの木の下からどぼんと水へはいってみんなのほうへ泳ぎだしました。
 すると、だれともなく、
「雨はざっこざっこ雨三郎、
 風はどっこどっこ又三郎。」と叫んだものがありました。
 みんなもす
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