がった。向こうさ降りだら馬も人もそれっ切りだったぞ。さあ嘉助、団子食べろ。このわろもたべろ。さあさあ、こいづも食べろ。」
「おじいさん。馬置いでくるが。」と一郎のにいさんが言いました。
「うんうん。牧夫来るどまだやがましがらな、したども、も少し待で。またすぐ晴れる。ああ心配した。おれも虎《とら》こ山《やま》の下まで行って見で来た。はあ、まんつよがった。雨も晴れる。」
「けさほんとに天気よがったのにな。」
「うん。またよぐなるさ、あ、雨漏って来たな。」
 一郎のにいさんが出て行きました。天井がガサガサガサガサ言います。おじいさんが笑いながらそれを見上げました。
 にいさんがまたはいって来ました。
「おじいさん。明るぐなった。雨あ霽《は》れだ。」
「うんうん、そうが。さあみんなよっく火にあだれ、おらまた草刈るがらな。」
 霧がふっと切れました。日の光がさっと流れてはいりました。その太陽は、少し西のほうに寄ってかかり、幾片かの蝋《ろう》のような霧が、逃げおくれてしかたなしに光りました。
 草からはしずくがきらきら落ち、すべての葉も茎も花も、ことしの終わりの日の光を吸っています。
 はるかな西
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