へ向いてしばらく暗算をするように少し首をまげて立っていました。
 みんなはやはりきろきろそっちを見ています。三郎は少し困ったように両手をうしろへ組むと向こう側の土手のほうへ職員室の前を通って歩きだしました。
 その時風がざあっと吹いて来て土手の草はざわざわ波になり、運動場のまん中でさあっと塵《ちり》があがり、それが玄関の前まで行くと、きりきりとまわって小さなつむじ風になって、黄いろな塵は瓶《びん》をさかさまにしたような形になって屋根より高くのぼりました。
 すると嘉助が突然高く言いました。
「そうだ。やっぱりあいづ又三郎だぞ。あいづ何かするときっと風吹いてくるぞ。」
「うん。」一郎はどうだかわからないと思いながらもだまってそっちを見ていました。三郎はそんなことにはかまわず土手のほうへやはりすたすた歩いて行きます。
 そのとき先生がいつものように呼び子をもって玄関を出て来たのです。
「お早うございます。」小さな子どもらはみんな集まりました。
「お早う。」先生はちらっと運動場を見まわしてから、「ではならんで。」と言いながらビルルッと笛を吹きました。
 みんなは集まってきてきのうのとおりきち
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