。それからゆっくり腰からたばこ入れをとって、きせるをくわえてぱくぱく煙をふきだしました。奇体だと思っていましたら、また腹かけから何か出しました。
「発破《はっぱ》だぞ、発破だぞ。」とみんな叫びました。
一郎は手をふってそれをとめました。庄助は、きせるの火をしずかにそれへうつしました。うしろにいた一人はすぐ水にはいって網をかまえました。庄助はまるで落ちついて、立って一あし水にはいるとすぐその持ったものを、さいかちの木の下のところへ投げこみました。するとまもなく、ぼおというようなひどい音がして水はむくっと盛りあがり、それからしばらくそこらあたりがきいんと鳴りました。
向こうの大人《おとな》たちはみんな水へはいりました。
「さあ、流れて来るぞ。みんなとれ。」と一郎が言いました。まもなく耕助は小指ぐらいの茶いろなかじかが横向きになって流れて来たのをつかみましたし、そのうしろでは嘉助が、まるで瓜《うり》をすするときのような声を出しました。それは六寸ぐらいある鮒《ふな》をとって、顔をまっ赤《か》にしてよろこんでいたのです。それからみんなとって、わあわあよろこびました。
「だまってろ、だまってろ。」一郎が言いました。
そのとき向こうの白い河原を肌《はだ》ぬぎになったり、シャツだけ着たりした大人が五六人かけて来ました。そのうしろからはちょうど活動写真のように、一人の網シャツを着た人が、はだか馬に乗ってまっしぐらに走って来ました。みんな発破の音を聞いて見に来たのです。
庄助はしばらく腕を組んでみんなのとるのを見ていましたが、
「さっぱりいないな。」と言いました。すると三郎がいつのまにか庄助のそばへ行っていました。そして中くらいの鮒を二匹、
「魚《さかな》返すよ。」といって河原へ投げるように置きました。すると庄助が、
「なんだこの童《わらす》あ、きたいなやづだな。」と言いながらじろじろ三郎を見ました。
三郎はだまってこっちへ帰ってきました。
庄助は変な顔をしてみています。みんなはどっとわらいました。
庄助はだまってまた上流《かみ》へ歩きだしました。ほかのおとなたちもついて行き、網シャツの人は馬に乗って、またかけて行きました。耕助が泳いで行って三郎の置いて来た魚を持ってきました。みんなはそこでまたわらいました。
「発破《はっぱ》かけだら、雑魚《ざこ》撒《ま》かせ。」嘉助が河原の砂っぱの上で、ぴょんぴょんはねながら高く叫びました。
みんなはとった魚を石で囲んで、小さな生け州をこしらえて、生きかえってももう逃げて行かないようにして、また上流のさいかちの木へのぼりはじめました。
ほんとうに暑くなって、ねむの木もまるで夏のようにぐったり見えましたし、空もまるで底なしの淵《ふち》のようになりました。
そのころだれかが、
「あ、生け州ぶっこわすとこだぞ。」と叫びました。見ると一人の変に鼻のとがった、洋服を着てわらじをはいた人が、手にはステッキみたいなものをもって、みんなの魚をぐちゃぐちゃかきまわしているのでした。
その男はこっちへびちゃびちゃ岸をあるいて来ました。
「あ、あいづ専売局だぞ。専売局だぞ。」佐太郎が言いました。
「又三郎、うなのとった煙草《たばこ》の葉めっけたんだで、うな、連れでぐさ来たぞ。」嘉助が言いました。
「なんだい。こわくないや。」三郎はきっと口をかんで言いました。
「みんな又三郎のごと囲んでろ、囲んでろ。」と一郎が言いました。
そこでみんなは三郎をさいかちの木のいちばん中の枝に置いて、まわりの枝にすっかり腰かけました。
「来た来た、来た来た。来たっ。」とみんなは息をこらしました。
ところがその男は別に三郎をつかまえるふうでもなく、みんなの前を通りこして、それから淵《ふち》のすぐ上流の浅瀬を渡ろうとしました。それもすぐに川をわたるでもなく、いかにもわらじや脚絆《きゃはん》のきたなくなったのをそのまま洗うというふうに、もう何べんも行ったり来たりするもんですから、みんなはだんだんこわくなくなりましたが、そのかわり気持ちが悪くなってきました。
そこでとうとう一郎が言いました。
「お、おれ先に叫ぶから、みんなあとから、一二三で叫ぶこだ。いいか。
あんまり川を濁すなよ、
いつでも先生《せんせ》言うでないか。一、二い、三。」
「あんまり川を濁すなよ、
いつでも先生言うでないか。」
その人はびっくりしてこっちを見ましたけれども、何を言ったのかよくわからないというようすでした。そこでみんなはまた言いました。
「あんまり川を濁すなよ、
いつでも先生、言うでないか。」
鼻のとがった人はすぱすぱと、煙草《たばこ》を吸うときのような口つきで言いました。
「この水飲むのか、ここらでは。」
「あんまり川をにごすなよ、
いつでも
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