原の砂っぱの上で、ぴょんぴょんはねながら高く叫びました。
 みんなはとった魚を石で囲んで、小さな生け州をこしらえて、生きかえってももう逃げて行かないようにして、また上流のさいかちの木へのぼりはじめました。
 ほんとうに暑くなって、ねむの木もまるで夏のようにぐったり見えましたし、空もまるで底なしの淵《ふち》のようになりました。
 そのころだれかが、
「あ、生け州ぶっこわすとこだぞ。」と叫びました。見ると一人の変に鼻のとがった、洋服を着てわらじをはいた人が、手にはステッキみたいなものをもって、みんなの魚をぐちゃぐちゃかきまわしているのでした。
 その男はこっちへびちゃびちゃ岸をあるいて来ました。
「あ、あいづ専売局だぞ。専売局だぞ。」佐太郎が言いました。
「又三郎、うなのとった煙草《たばこ》の葉めっけたんだで、うな、連れでぐさ来たぞ。」嘉助が言いました。
「なんだい。こわくないや。」三郎はきっと口をかんで言いました。
「みんな又三郎のごと囲んでろ、囲んでろ。」と一郎が言いました。
 そこでみんなは三郎をさいかちの木のいちばん中の枝に置いて、まわりの枝にすっかり腰かけました。
「来た来た、来た来た。来たっ。」とみんなは息をこらしました。
 ところがその男は別に三郎をつかまえるふうでもなく、みんなの前を通りこして、それから淵《ふち》のすぐ上流の浅瀬を渡ろうとしました。それもすぐに川をわたるでもなく、いかにもわらじや脚絆《きゃはん》のきたなくなったのをそのまま洗うというふうに、もう何べんも行ったり来たりするもんですから、みんなはだんだんこわくなくなりましたが、そのかわり気持ちが悪くなってきました。
 そこでとうとう一郎が言いました。
「お、おれ先に叫ぶから、みんなあとから、一二三で叫ぶこだ。いいか。
 あんまり川を濁すなよ、
 いつでも先生《せんせ》言うでないか。一、二い、三。」
「あんまり川を濁すなよ、
 いつでも先生言うでないか。」
 その人はびっくりしてこっちを見ましたけれども、何を言ったのかよくわからないというようすでした。そこでみんなはまた言いました。
「あんまり川を濁すなよ、
 いつでも先生、言うでないか。」
 鼻のとがった人はすぱすぱと、煙草《たばこ》を吸うときのような口つきで言いました。
「この水飲むのか、ここらでは。」
「あんまり川をにごすなよ、
 いつでも
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