のやうに耳を立てて、じっとその方角を聴いてゐましたが、俄《には》かに飛びあがりました。
「あっ葡萄酒《ぶだうしゅ》だ、葡萄酒だ。葡ん[#「ん」は小書き]萄酒はじけでるぢゃ。」
家の中へ飛び込んで落しの蓋《ふた》をとって見ますと、たしかに二十本の葡萄の瓶《びん》は、大抵はじけて黒い立派な葡萄酒は、落しの底にながれてゐます。
耕平はすっかり怒って、かるわざの股引《ももひき》のやうに、半分赤く染まった大根を引っぱり出して、いきなり板の間に投げつけます。
さあ、そこでこんどこそは、
[#ここから4字下げ]
耕平が、そっとしまった葡萄酒は
順序たゞしく
みんなはじけてなくなった。
[#ここで字下げ終わり]
と斯《か》う云ふわけです。
どうです、今度も耕平はこの前のときのやうに
「ふん、一向さっぱり当《あだ》り前ぁだんぢゃ。」と云ひますか。云ひはしません。参ったのです。
底本:「新修宮沢賢治全集 第十巻」筑摩書房
1979(昭和54)年9月15日初版第1刷発行
1983(昭和58)年4月20日初版第5刷発行
入力:田代信行
校正:今井忠夫
2003年4月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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