んに切なかったのです。このごろは大へんに心持が変ってよくなっていたのです。ですからなるべく狐のことなど樺の木のことなど考えたくないと思ったのでしたがどうしてもそれがおもえて仕方ありませんでした。おれはいやしくも神じゃないか、一本の樺の木がおれに何のあたいがあると毎日毎日土神は繰《く》り返して自分で自分に教えました。それでもどうしてもかなしくて仕方なかったのです。殊《こと》にちょっとでもあの狐のことを思い出したらまるでからだが灼《や》けるくらい辛《つら》かったのです。
土神はいろいろ深く考え込《こ》みながらだんだん樺の木の近くに参りました。そのうちとうとうはっきり自分が樺の木のとこへ行こうとしているのだということに気が付きました。すると俄《にわ》かに心持がおどるようになりました。ずいぶんしばらく行かなかったのだからことによったら樺の木は自分を待っているのかも知れない、どうもそうらしい、そうだとすれば大へんに気の毒だというような考《かんがえ》が強く土神に起って来ました。土神は草をどしどし踏み胸を踊《おど》らせながら大股《おおまた》にあるいて行きました。ところがその強い足なみもいつかよろよ
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