ふるえました。
土神はたまらなそうに両手で髪を掻きむしりながらひとりで考えました。おれのこんなに面白《おもしろ》くないというのは第一は狐《きつね》のためだ。狐のためよりは樺の木のためだ。狐と樺の木とのためだ。けれども樺の木の方はおれは怒《おこ》ってはいないのだ。樺の木を怒らないためにおれはこんなにつらいのだ。樺の木さえどうでもよければ狐などはなおさらどうでもいいのだ。おれはいやしいけれどもとにかく神の分際だ。それに狐のことなどを気にかけなければならないというのは情ない。それでも気にかかるから仕方ない。樺の木のことなどは忘れてしまえ。ところがどうしても忘れられない。今朝《けさ》は青ざめて顫《ふる》えたぞ。あの立派だったこと、どうしても忘られない。おれはむしゃくしゃまぎれにあんなあわれな人間などをいじめたのだ。けれども仕方ない。誰《たれ》だってむしゃくしゃしたときは何をするかわからないのだ。
土神はひとりで切ながってばたばたしました。空を又|一疋《いっぴき》の鷹《たか》が翔《か》けて行きましたが土神はこんどは何とも云わずだまってそれを見ました。
ずうっとずうっと遠くで騎兵《きへい》の
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