電車
宮沢賢治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)眼《め》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから5字下げ]
〔〕:アクセント分解された欧文をかこむ
(例)“〔Was fu:r ein Gesicht du hast !〕”おや。
アクセント分解についての詳細は下記URLを参照してください
http://aozora.gr.jp/accent_separation.html
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[#ここから5字下げ]
第一双の眼《め》の所有者
(むしゃくしゃした若い古物商。紋付と黄の風呂敷《ふろしき》)
第二双の眼の所有者
(大学生。制服制帽。大きなめがね。灰色ヅックの提鞄《さげかばん》)
[#ここで字下げ終わり]
第一双の眼(いや、いらっしゃい、今日は。よいお天気でございます。)
第二双の眼(何を哂《わら》ってやがるんだ。)
(失礼いたしました。へいへい。えゝと、あなたさまはメフィストさんのご子息さん。今日はどちらへ。)
(何だ失敬な。)
(あ、左様で。あ、左様でございましたか。
これはどうもまことに失礼いたしました。たいへん飛び乗りがお上手でいらっしゃいます。)
(まだ何か云《い》ってるのかい。失敬ぢゃないか。)
(さうさう。あなたはメフィストさんとはアウエルバッハ以来お仲がよろしくないのですな。ついおなりがそっくりなもんですから、まあちょっと相似形、さやう、ごく複雑な立体の相似形といふやうにお見受けいたしたもんですから。いや、どうもまことに失礼いたしました。)
(気を付けろ。間抜けめ。何だそのにやけやうは。)
(へいへい。なあにどうせ私などはへいへい云ふやうにできてるんですから。いや。それにしてもたゞ今は又もやとんだ無礼をはたらきました。ひらにひらにご容赦と。ところでお若いのにそのまん円な赤い硝子《ガラス》のべっ甲めがねはいかがでせうか。いかゞなもんでございませう。な。)
(気持ちの悪いやつだな。この眼鏡《めがね》かい。この眼鏡かい。おれは乱視だから仕方ないさ。)
(あっ、ああ、なる程乱視。乱視でしたか。いや、それならば仕方ござんせん。なるほど、なるほど。とにかくしかしそれにしてもと、あんまりお帽子の菱《ひし》がたが神経質にまあ一寸《ちょっと》詩人のやうに鋭く尖《とが》っていささかご人体《にんてい》
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