うん。そうだね。僕《ぼく》はあんな大きな蛋白石《たんぱくせき》があるよ。けれどもあんなに光りはしないよ。僕《ぼく》はこんど、もっといいのをさがしに行くんだ。お前もいっしょに行かないか」
大臣《だいじん》の子はすこしもじもじしました。
王子はまたすぐ大臣《だいじん》の子にたずねました。
「ね、おい。僕《ぼく》のもってるルビーの壺《つぼ》やなんかより、もっといい宝石《ほうせき》は、どっちへ行ったらあるだろうね」
大臣《だいじん》の子が申《もう》しました。
「虹《にじ》の脚《あし》もとにルビーの絵《え》の具皿《ぐざら》があるそうです」
王子が口早に言《い》いました。
「おい、取《と》りに行こうか。行こう」
「今すぐでございますか」
「うん。しかし、ルビーよりは金剛石《こんごうせき》の方がいいよ。僕《ぼく》黄色な金剛石《こんごうせき》のいいのを持ってるよ。そして今度《こんど》はもっといいのを取《と》って来るんだよ。ね、金剛石《こんごうせき》はどこにあるだろうね」
大臣《だいじん》の子が首《くび》をまげて少し考えてから申《もう》しました。
「金剛石《こんごうせき》は山の頂上《ちょうじょう》にあるでしょう」
王子はうなずきました。
「うん。そうだろうね。さがしに行こうか。ね。行こうか」
「王さまに申《もう》し上げなくてもようございますか」と大臣《だいじん》の子が目をパチパチさせて心配《しんぱい》そうに申《もう》しました。
その時うしろの霧《きり》の中から、
「王子さま、王子さま、どこにいらっしゃいますか。王子さま」
と、年とったけらいの声が聞こえて参《まい》りました。
王子は大臣《だいじん》の子の手をぐいぐいひっぱりながら、小声で急《いそ》いで言《い》いました。
「さ、行こう。さ、おいで、早く。追《お》いつかれるから」
大臣《だいじん》の子は決心《けっしん》したように剣《つるぎ》をつるした帯革《おびがわ》を堅《かた》くしめ直《なお》しながらうなずきました。
そして二人は霧《きり》の中を風よりも早く森の方へ走って行きました。
*
二人はどんどん野原の霧《きり》の中を走って行きました。ずうっとうしろの方で、けらいたちの声がまたかすかに聞こえました。
王子ははあはあ笑《わら》いながら、
「さあ、も少し走ってこう。もう誰《だれ》も追《お》いつきや
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