きのこを草の間に立てようとしましたがすぐ傾いてしまひました。
「あゝ、萱で串《くし》にしておけばいゝよ。そら、こんな工合《ぐあひ》に。」黒服は云ひながら萱の穂を一寸ばかりにちぎって地面に刺してその上にきのこの脚をまっすぐに刺して立てました。
「うまい、うまい、丁度いゝ、おい、おまへたち、萱の穂をこれ位の長さにちぎって呉れ。」
私たちはたうとう笑ひました。役人も笑ってゐました。間もなく役人たちは私たちのやった萱《かや》の穂をすっかりその辺に植ゑて上にみんな蕈《きのこ》をつき刺しました。実に見事にはなりましたが又をかしかったのです。第一萱が倒れてゐましたしきのこのちぎれた脚も見えてゐました。私どもは笑って見てゐますと黒服の役人がむづかしい顔をして云ひました。
「さあ、お前たちもう行って呉《く》れ、この袋はやるよ。」
「うん、さうだ、そら、ごほうびだよ。」二人はメリケン粉の袋を私たちに投げました。
そんなもの要《い》らないと私たちは思ひましたが役人が又まじめになって恐《こは》くなりましたからだまって受け取りました。そして林を出ました。林を出るときちょっとふりかへって見ましたら二人がまっす
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