けないぞ。」
私たちは顔を見合せました。そしてだまって籠《かご》を提げて向ふへ行かうとしました。
慶次郎はぽいっとおじぎをしましたから私もしました。紺服の役人はメリケン粉のからふくろを手に団子のやうに捲《ま》きつけてゐましたが少し屈《かが》むやうにしました。
私たちは行かうとしました。すると黒服の役人がうしろからいきなり云ひました。
「おいおい。おまへたちはこゝでその蕈《きのこ》をとったのか。」
又かと私はぎくっとしました。けれどもこの時もどうしても「いゝえ。」と云へませんでした。慶次郎がかすれたやうな声で「はあ。」と答へたのです。すると役人は二人とも近くへ来て籠《かご》の中をのぞきました。
「まだあるだらうな。どこかこゝらで、沢山ある所をさがして呉《く》れないか。ごほうびをあげるから。」
私たちはすっかり面白くなりました。
「まだ沢山ありますよ。さがしてあげませう。」私が云ひましたら紺服の役人があわてて手をふって叫びました。
「いやいや、とってしまっちゃいけない、たゞある場所をさがして教へてさへ呉れればいゝんだ。さがしてごらん。」
私と慶次郎とはまるで電気にかかったやうに
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