とて、何にもならぬ、げにもげにも浅間《あさま》しくなさけないわれらの身じゃ。」
 梟《ふくろう》の坊さんは一寸《ちょっと》声を切りました。今夜ももう一時の上《のぼ》りの汽車の音が聞えて来ました。その音を聞くと梟どもは泣きながらも、汽車の赤い明るいならんだ窓のことを考えるのでした。講釈がまた始まりました。
「心|暫《しば》らくも安らかなることなしと、どうじゃ、みなの衆、ただの一時《いっとき》でも、ゆっくりと何の心配もなく落ち着いたことがあるかの。もういつでもいつでもびくびくものじゃ。一度《ひとたび》梟身《きょうしん》を尽して又|新《あらた》に梟身を得《う》と斯《こ》うじゃ。泣いて悔《く》やんで悲しんで、ついには年老《としと》る、病気になる、あらんかぎりの難儀《なんぎ》をして、それで死んだら、もうこの様な悪鳥の身を離れるかとならば、仲々そうは参らぬぞや。身に染《し》み込《こ》んだ罪業《ざいごう》から、又梟に生れるじゃ。斯《かく》の如《ごと》くにして百|生《しゃう》、二百生、乃至《ないし》劫《こう》をも亘《わた》るまで、この梟身を免《まぬか》れぬのじゃ。審《つまびらか》に諸の患難を蒙《こうむ
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