え。我今|疾翔大力《しっしょうたいりき》が威神力《いじんりき》を享《う》けて梟鵄救護章の一節を講ぜんとす。唯《ただ》願うらくはかの如来《にょらい》大慈《だいじ》大悲《だいひ》我が小願の中に於《おい》て大神力を現じ給い妄言《もうげん》綺語《きご》の淤泥《おでい》を化《け》して光明|顕色《けんじき》の浄瑠璃《じょうるり》となし、浮華《ふか》の中より清浄《しょうじょう》の青蓮華《しょうれんげ》を開かしめ給わんことを。至心欲願、南無仏《なむぶつ》南無仏南無仏。
爾《そ》の時に疾翔大力、爾迦夷《るかい》に告げて曰《いわ》く、諦《あきらか》に聴け諦に聴け。善《よ》くこれを思念せよ。我今|汝《なんじ》に梟鵄諸の悪禽《あくきん》離苦《りく》解脱《げだつ》の道を述べんと。
爾迦夷|則《すなわ》ち両翼《りょうよく》を開張し、虔《うやうや》しく頸《くび》を垂れて座を離《はな》れ、低く飛揚《ひよう》して疾翔大力を讃嘆《さんたん》すること三匝《さんそう》にして、徐《おもむろ》に座に復し、拝跪《はいき》して願うらく疾翔大力、疾翔大力、ただ我|等《ら》が為《ため》にこれを説き給え。ただ我等が為にこれを説き給えと。
疾翔大力、微笑《みしょう》して金色《こんじき》の円光を以《もっ》て頭《こうべ》に被《かぶ》れるに、諸鳥|歓喜《かんぎ》充満《じゅうまん》せり。則ち説いて曰く、
汝等|審《つまびらか》に諸の悪業《あくごう》を作る。或《あるい》は夜陰《やいん》を以て小禽《しょうきん》の家に至る。時に小禽|既《すで》に終日日光に浴し、歌唄《かばい》跳躍《ちょうやく》して疲労をなし、唯唯《ただただ》甘美《かんび》の睡眠《すいみん》中にあり、汝等飛躍してこれを握《つか》む。利爪《りそう》深くその身に入り、諸の小禽痛苦又声を発するなし、則《すなわ》ちこれを裂《さ》きて擅《ほしいまま》に※[#「口+敢」、第3水準1−15−19]食《たんじき》す。或は沼田《しょうでん》に至り、螺蛤《らこう》を啄《ついば》む。螺蛤|軟泥《なんでい》中にあり、心|柔※[#「車+(而/大)」、第3水準1−92−46]《にゅうなん》にして唯温水を憶《おも》う。時に俄《にわか》に身空中にあり、或は直ちに身を破る、悶乱《もんらん》声を絶す。汝等これを※[#「口+敢」、第3水準1−15−19]食するに、又|懺悔《ざんげ》の念あることなし。
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