まま、はじめからおしまいまで、しんとしていました。
その木の一番高い枝にとまりからだ中銀いろで大きく頬《ほお》をふくらせ今の講義のやすみのひまを水銀のような月光をあびてゆらりゆらりといねむりしているのはたしかに梟のおじいさんでした。
月はもう余程《よほど》高くなり、星座もずいぶんめぐりました。蝎座《さそりざ》は西へ沈《しず》むとこでしたし、天の川もすっかり斜《なな》めになりました。
向うの低い松の木から、さっきの年老《としよ》りの坊さんの梟が、斜に飛んでさっきの通り、説教の枝にとまりました。
急に林のざわざわがやんで、しずかにしずかになりました。風のためか、今まで聞えなかった遠くの瀬《せ》の音が、ひびいて参りました。坊さんの梟はゴホンゴホンと二つ三つせきばらいをして又《また》はじめました。
「爾《そ》の時に、疾翔大力《しっしょうたいりき》、爾迦夷《るかい》に告げて曰《いわ》く、諦《あきらか》に聴《き》け、諦に聴け。善《よ》くこれを思念せよ。我今|汝《なんじ》に、梟鵄《きょうし》諸《もろもろ》の悪禽《あくきん》、離苦《りく》解脱《げだつ》の道を述べんと。
爾迦夷《るかい》、則《すなわ》ち両翼《りょうよく》を開張し、虔《うやうや》しく頸《くび》を垂れて座を離《はな》れ、低く飛揚《ひよう》して疾翔大力を讃嘆《さんたん》すること三匝《さんそう》にして、徐《おもむろ》に座に復し、拝跪《はいき》して唯《ただ》願うらく、疾翔大力、疾翔大力、ただ我|等《ら》が為《ため》にこれを説き給《たま》え。ただ我等が為にこれを説き給えと。
疾翔大力|微笑《みしょう》して、金色《こんじき》の円光を以《もっ》て頭《こうべ》に被《かぶ》れるに、その光|遍《あまね》く一座を照し、諸鳥|歓喜《かんぎ》充満《じゅうまん》せり。則ち説いて曰く、
汝等《なんじら》審《つまびらか》に諸の悪業《あくごう》を作る。或《あるい》は夜陰《やいん》を以て小禽《しょうきん》の家に至る。時に小禽|既《すで》に終日日光に浴し、歌唄《かばい》跳躍《ちょうやく》して疲労《ひろう》をなし、唯唯《ただただ》甘美《かんび》の睡眠《すいみん》中にあり。汝等飛躍してこれを握《つか》む。利爪《りそう》深くその身に入り、諸の小禽痛苦又声を発するなし。則ちこれを裂《さ》きて擅《ほしいまま》に※[#「口+敢」、第3水準1−15−19]
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