、一つの山になっている。それが岩頸だ。ははあ、面白《おもしろ》いぞ、つまりそのこれは夢《ゆめ》の中のもやだ、もや、もや、もや、もや。そこでそのつまり、鼠《ねずみ》いろの岩頸だがな、その鼠いろの岩頸が、きちんと並《なら》んで、お互《たがい》に顔を見合せたり、ひとりで空うそぶいたりしているのは、大変おもしろい。ふふん。」
それは実際その通り、
向うの黒い四つの峯《みね》は、
四人兄弟の岩頸で、
だんだん地面からせり上って来た。
楢《なら》ノ木大学士の喜びようはひどいもんだ。
「ははあ、こいつらはラクシャンの四人兄弟だな。よくわかった。ラクシャンの四人兄弟だ。よしよし。」
注文通り岩頸は
丁度胸までせり出して
ならんで空に高くそびえた。
一番右は
たしかラクシャン第一子
まっ黒な髪《かみ》をふり乱し
大きな眼をぎろぎろ空に向け
しきりに口をぱくぱくして
何かどなっている様だが
その声は少しも聞えなかった。
右から二番目は
たしかにラクシャンの第二子だ。
長いあごを両手に載《の》せて睡《ねむ》っている。
次はラクシャン第三子
やさしい眼をせわしくまたたき
いちばん左は
ラクシャンの第|四子《しし》、末っ子だ。
夢のような黒い瞳《ひとみ》をあげて
じっと東の高原を見た。
楢ノ木大学士がもっとよく
四人を見ようと起き上ったら
俄《にわ》かにラクシャン第一子が
雷《かみなり》のように怒鳴《どな》り出した。
「何をぐずぐずしてるんだ。潰《つぶ》してしまえ。灼《や》いてしまえ。こなごなに砕《くだ》いてしまえ。早くやれっ。」
楢ノ木大学士はびっくりして
大急ぎで又横になり
いびきまでして寝たふりをし
そっと横目で見つづけた。
ところが今のどなり声は
大学士に云ったのでもなかったようだ。
なぜならラクシャン第一子は
やっぱり空へ向いたまま
素敵などなりを続けたのだ。
「全体何をぐずぐずしてるんだ。砕いちまえ、砕いちまえ、はね飛ばすんだ。はね飛ばすんだよ。火をどしゃどしゃ噴《ふ》くんだ。熔岩の用意っ。熔岩。早く。畜生《ちくしょう》。いつまでぐずぐずしてるんだ。熔岩、用意っ。もう二百万年たってるぞ。灰を降らせろ、灰を降らせろ。なぜ早く支度《したく》をしないか。」
しずかなラクシャン第三子が
兄をなだめて斯《こ》う云った。
「兄さん。少しおやすみなさい。こんなしずかな夕方じゃありませんか。」
前へ
次へ
全21ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング