また》聞える。
「まあ、静かになさい。僕《ぼく》たちは実に実に長い間|堅《かた》く堅く結び合ってあのまっくらなまっくらなとこで一緒にまわりからのはげしい圧迫やすてきな強い熱にこらえて来たではありませんか。一時はあまりの熱と力にみんな一緒に気違《きちが》いにでもなりそうなのをじっとこらえて来たではありませんか。」
「そうです、それは全くその通りです。けれども苦しい間は人をたのんで楽になると人をそねむのはぜんたいいい事なんでしょうか。」
「何だって。」
「ちょっと、ちょっと、ちょっとお待ちなさい。ね。そして今やっとお日さまを見たでしょう。そのお日さまも僕たちが前に土の底でコングロメレートから聞いたとは大へんなちがいではありませんか。」
「ええ、それはもうちがってます。コングロメレートのはなしではお日さまはまっかで空は茶いろなもんだと云っていましたが今見るとお日さまはまっ白で空はまっ青です。あの人はうそつきでしたね。」
双子の声が又聞えた。
「さあ、しかしあのコングロメレートという方は前にただの砂利《じゃり》だったころはほんとうに空が茶いろだったかも知れませんね。」
「そうでしょうか。とにかくうそをつくこととひとの恩を仇《あだ》でかえすのとはどっちも悪いことですね。」
「何だと、僕のことを云ってるのかい。よしさあ、僕も覚悟《かくご》があるぞ。決闘《けっとう》をしろ、決闘を。」
「まあ、お待ちなさい。ね、あのお日さまを見たときのうれしかったこと。どんなに僕らは叫《さけ》んだでしょう。千五百万年光というものを知らなかったんだもの。あの時鋼《はがね》の槌《つち》がギギンギギンと僕らの頭にひびいて来ましたね。遠くの方で誰《たれ》かが、ああお前たちもとうとうお日さまの下へ出るよと叫んでいた、もう僕たちの誰と誰とが一緒になって誰と誰とがわかれなければならないか。一向|判《わか》らなかったんですね。さよならさよならってみんな叫びましたねえ。そしたら急にパッと明るくなって僕たちは空へ飛びあがりましたねえ。あの時僕はお日さまの外に何か赤い光るものを見たように思うんですよ。」
「それは僕も見たよ。」
「僕も見たんだよ、何だったろうね、あれは。」
大学士は又笑う。
「それはね、明らかにたがねのさきから出た火花だよ。パチッて云ったろう。そして熱かったろう。」
ところが学士の声などは
鉱物どもに聞
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