くなられたのだ。」
俄《にわ》かにラクシャンの末子《まっし》が叫ぶ。
「火が燃えている。火が燃えている。大兄さん。大兄さん。ごらんなさい。だんだん拡《ひろ》がります。」
ラクシャン第一子がびっくりして叫《さけ》ぶ。
「熔岩《ようがん》、用意っ。灰をふらせろ、えい、畜生《ちくしょう》、何だ、野火か。」
その声にラクシャンの第二子が
びっくりして眼《め》をさまし、
その長い顎《あご》をあげて、
眼を釘《くぎ》づけにされたように
しばらく野火をみつめている。
「誰《たれ》かやったのか。誰だ、誰だ、今ごろ。なんだ野火か。地面の挨《ほこり》をさらさらさらっと掃除《そうじ》する、てまえなんぞに用はない。」
するとラクシャンの第一子が
ちょっと意地悪そうにわらい
手をばたばたと振《ふ》って見せて
「石だ、火だ。熔岩だ。用意っ。ふん。」
と叫ぶ。
ばかなラクシャンの第二子が
すぐ釣《つ》り込《こ》まれてあわて出し
顔いろをぽっとほてらせながら
「おい兄貴、一吠《ひとほ》えしようか。」
と斯《こ》う云った。
兄貴はわらう、
「一吠えってもう何十万年を、きさまはぐうぐう寝《ね》ていたのだ。それでもいくらかまだ力が残っているのか」
無精《ぶしょう》な弟は只《ただ》一言《ひとこと》
「ない」
と答えた。
そして又《また》長い顎をうでに載《の》せ、
ぽっかりぽっかり寝てしまう。
しずかなラクシャン第三子が
ラクシャンの第|四子《しし》に云う
「空が大へん軽くなったね、あしたの朝はきっと晴れるよ。」
「ええ今夜は鷹《たか》が出ませんね」
兄は笑って弟を試《ため》す。
「さっきの野火で鷹の子供が焼けたのかな。」
弟は賢《かしこ》く答えた。
「鷹の子供は、もう余程《よほど》、毛も剛《こわ》くなりました。それに仲々強いから、きっと焼けないで遁《に》げたでしょう」
兄は心持よく笑う。
「そんなら結構だ、さあもう兄さんたちはよくおやすみだ。楢《なら》ノ木大学士と云うやつもよく睡《ねむ》っている。さっきから僕等《ぼくら》の夢《ゆめ》を見ているんだぜ。」
するとラクシャン第四子が
ずるそうに一寸《ちょっと》笑ってこう云った。
「そんなら僕一つおどかしてやろう。」
兄のラクシャン第三子が
「よせよせいたずらするなよ」
と止めたが
いたずらの弟はそれを聞かずに
光る大きな長い舌を出して
大学士の額をべろりと嘗《
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