がね、だまって持って行って呉《く》れたよ。」
「さうかい。ハッハ。まあいゝよ。あの雲はあしたの朝はもう霽《は》れてるよ。ヒームカさんがまばゆい新らしい碧《あを》いきものを着てお日さまの出るころは、きっと一番さきにお前にあいさつするぜ。そいつはもうきっとなんだ。」
「だけど兄さん。僕、今度は、何の花をあげたらいゝだらうね。もう僕のとこには何の花もないんだよ。」
「うん、そいつはね、おれの所にね、桜草があるよ、それをお前にやらう。」
「ありがたう、兄さん。」
「やかましい、何をふざけたことを云ってるんだ。」
暴《あら》っぽいラクシャンの第一子が
金粉の怒鳴り声を
夜の空高く吹きあげた。
「ヒームカってなんだ。ヒームカって。
ヒームカって云ふのは、あの向ふの女の子の山だらう。よわむしめ。あんなものとつきあふのはよせと何べんもおれが云ったぢゃないか。ぜんたいおれたちは火から生れたんだぞ青ざめた水の中で生れたやつらとちがふんだぞ。」
ラクシャンの第|四子《しし》は
しょげて首を垂れたが
しづかな直《ぢ》かの兄が
弟のために長兄をなだめた。
「兄さん。ヒームカさんは血統はいゝのですよ。火から生れた
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