ぶりで、愉快な露天に寝るんだな。うまいぞうまいぞ。ところで草へ寝ようかな。かれ草でそれはたしかにいゝけれども、寝てゐるうちに、野火にやかれちゃ一言《いちごん》もない。よしよし、この石へ寝よう。まるでね台だ。ふんふん、実に柔らかだ。いゝ寝台《ねだい》だぞ。」
その石は実際柔らかで、
又敷布のやうに白かった。
そのかはり又大学士が、
腕をのばして背嚢《はいなう》をぬぎ、
肱《ひぢ》をまげて外套《ぐゎいたう》のまゝ、
ごろりと横になったときは、
外套のせなかに白い粉が、
まるで一杯についたのだ。
もちろん学士はそれを知らない。
又そんなこと知ったとこで、
あわてて起きあがる性質でもない。
水がその広い河原の、
向ふ岸近くをごうと流れ、
空の桔梗《ききゃう》のうすあかりには、
山どもがのっきのっきと黒く立つ。
大学士は寝たまゝそれを眺《なが》め、
又ひとりごとを言ひ出した。
「ははあ、あいつらは岩頸《がんけい》だな。岩頸だ、岩頸だ。相違ない。」
そこで大学士はいゝ気になって、
仰向けのまゝ手を振って、
岩頸の講義をはじめ出した。
「諸君、手っ取り早く云《い》ふならば、岩頸といふのは、地殻から一
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