。
「さあ、見附けたぞ。この足跡の尽きた所には、きっとこいつが倒れたまゝ化石してゐる。巨《おほ》きな骨だぞ。まづ背骨なら二十米はあるだらう。巨きなもんだぞ。」
大学士はまるで雀躍《こをどり》して
その足あとをつけて行く。
足跡はずゐぶん続き
どこまで行くかわからない。
それに太陽の光線は赭《あか》く
たいへん足が疲れたのだ。
どうもをかしいと思ひながら
ふと気がついて立ちどまったら
なんだか足が柔らかな
泥に吸はれてゐるやうだ。
堅い頁岩《けつがん》の筈《はず》だったと思って
楢《なら》ノ木大学士はうしろを向いた。
そしたら全く愕《おどろ》いた。
さっきから一心に跡《つ》けて来た
巨《おほ》きな、蟇《がま》の形の足あとは
なるほどずうっと大学士の
足もとまでつゞいてゐて
それから先ももっと続くらしかったが
も一つ、どうだ、大学士の
銀座でこさへた長靴《ながぐつ》の
あともぞろっとついてゐた。
「こいつはひどい。我輩の足跡までこんなに深く入るといふのは実際少し恐れ入った。けれどもそれでも探求の目的を達することは達するな。少し歩きにくいだけだ。さあもう斯《か》うなったらどこまでだって追って
前へ
次へ
全40ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング