てゐるのかい。まさか忘れはしないだらうがね。忘れなかったら今になって、僕の横腹を肱で押すなんて出来た義理かい。」
大学士はこの語《ことば》を聞いて
すっかり愕《おど》ろいてしまふ。
「どうも実に記憶のいゝやつらだ。えゝ、千五百の万年の前のその時をお前は忘れてしまってゐるのかい。まさか忘れはしないだらうがね、えゝ。これはどうも実に恐れ入ったね、いったい誰だ。変に頭のいゝやつは。」
大学士は又そろそろと起きあがり
あたりをさがすが何もない。
声はいよいよ高くなる。
「それはたしかに、あなたは僕の先輩さ。けれどもそれがどうしたの。」
「どうしたのぢゃないぢゃないか。僕がやっと体骼《たいかく》と人格を完成してほっと息をついてるとお前がすぐ僕の足もとでどんな声をしたと思ふね。こんな工合《ぐあひ》さ。もし、ホンブレンさま、こゝの所で私もちっとばかり延びたいと思ひまする。どうかあなたさまのおみあしさきにでも一寸《ちょっと》取りつかせて下さいませ。まあかう云ふお前のことばだったよ。」
楢《なら》ノ木学士は手を叩《たた》く。
「ははあ、わかった。ホンブレンさまと、一人はホル[#「ル」は小書き]ンブレンド
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