死んでうかびあがるというではありませんか。」
すると署長さんがなんだか変にわらいました。けれどもそれも気のせいかしらと、町長さんは思いました。
「はあ、そんな評判がありますかな。」
「ありますとも。どうもそしてその、子供らが、あなたのしわざだと云いますが、困ったもんですな。」
署長さんは椅子から飛びあがりました。
「そいつは大へんだ。僕の名誉《めいよ》にも関係します。早速《さっそく》犯人をつかまえます。」
「何かおてがかりがありますか。」
「さあ、そうそう、ありますとも。ちゃんと証拠《しょうこ》があがっています。」
「もうおわかりですか。」
「よくわかってます。実は毒もみは私ですがね。」
署長さんは町長さんの前へ顔をつき出してこの顔を見ろというようにしました。
町長さんも愕《おどろ》きました。
「あなた? やっぱりそうでしたか。」
「そうです。」
「そんならもうたしかですね。」
「たしかですとも。」
署長さんは落ち着いて、卓子《テーブル》の上の鐘《かね》を一つカーンと叩《たた》いて、赤ひげのもじゃもじゃ生えた、第一等の探偵《たんてい》を呼びました。
さて署長さんは縛《しば》られて、裁判にかかり死刑《しけい》ということにきまりました。
いよいよ巨《おお》きな曲った刀で、首を落されるとき、署長さんは笑って云いました。
「ああ、面白かった。おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中《むちゅう》なんだ。いよいよこんどは、地獄《じごく》で毒もみをやるかな。」
みんなはすっかり感服しました。
底本:宮沢賢治「ちくま日本文学全集」(筑摩書房)
1991(平成3)年3月20日第1刷発行
親本:宮沢賢治全集(ちくま文庫)
入力:古村充
校正:野口英司
1998年10月17日公開
1999年7月23日修正
青空文庫作成ファイル:
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