も、やっぱりすっかりお腹が空《す》いて一本の松の木によりかかって目をつぶってゐました。すると兎《うさぎ》がやって参りました。
「狸さま。かうひもじくては全く仕方ございません。もう死ぬだけでございます。」
 狸がきもののえりを掻《か》き合せて云ひました。
「さうぢゃ。みんな往生ぢゃ。山猫《やまねこ》大明神さまのおぼしめしどほりぢゃ。な。なまねこ。なまねこ。」
 兎も一緒に念猫《ねんねこ》をとなへはじめました。
「なまねこ、なまねこ、なまねこ、なまねこ。」
 狸は兎の手をとってもっと自分の方へ引きよせました。
「なまねこ、なまねこ、みんな山猫さまのおぼしめしどほりになるのぢゃ。なまねこ。なまねこ。」と云ひながら兎の耳をかじりました。兎はびっくりして叫びました。
「あ痛っ。狸さん。ひどいぢゃありませんか。」
 狸はむにゃむにゃ兎の耳をかみながら、
「なまねこ、なまねこ、世の中のことはな、みんな山猫さまのおぼしめしのとほりぢゃ。おまへの耳があんまり大きいのでそれをわしに噛《かじ》って直せといふのは何といふありがたいことぢゃ。なまねこ。」と云ひながら、たうとう兎の両方の耳をたべてしまひました。

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