りくやしくて、しばらく熱病になって、
「うう、くもめ、よくもぶじょくしたな。うう。くもめ。」といってゐました。
網は時々風にやぶれたりごろつきのかぶとむしにこはされたりしましたけれどもくもはすぐすうすう糸をはいて修繕しました。
二百疋の子供は百九十八疋まで蟻《あり》に連れて行かれたり、行衛《ゆくゑ》不明になったり、赤痢にかかったりして死んでしまひました。
けれども子供らは、どれもあんまりお互ひに似てゐましたので、親ぐもはすぐ忘れてしまひました。
そして今はもう網はすばらしいものです。虫がどんどんひっかゝります。
ある日夫婦の蜘蛛《くも》は、葉のかげにかくれてまた茶をのんでゐますと、一疋の旅の蚊がこっちへ飛んで来て、それから網を見てあわてて飛び戻って行った。くもは三あしばかりそっちへ出て行ってあきれたやうにそっちを見送った。
すると下の方で大きな笑ひ声がしてそれから太い声で歌ふのが聞えました。
「あぁかいてながのくぅも、
てながの赤いくも
あんまり網がまづいので、
八千二百里旅の蚊も、
くうんとうなってまはれ右。」
見るとそれは顔を洗ったことのない狸《たぬき》でした。蜘蛛はキリキリキリッとはがみをして云ひました。
「何を。狸め。おれはいまに虫けら会の会長になってきっときさまにおじぎをさせて見せるぞ。」
それからは蜘蛛は、もう一生けん命であちこちに十も網をかけたり、夜も見はりをしたりしました。ところが諸君困ったことには腐敗したのだ。食物があんまりたまって、腐敗したのです。そして蜘蛛の夫婦と子供にそれがうつりました。そこで四人《よったり》は足のさきからだんだん腐れてべとべとになり、ある日たうとう雨に流れてしまひました。
ちゃうどそのときはつめくさの花のさくころで、あの眼の碧《あを》い蜂《はち》の群は野原ぢゅうをもうあちこちにちらばって一つ一つの小さなぼんぼりのやうな花から火でももらふやうにして蜜《みつ》を集めて居りました。
二、銀色のなめくぢはどうしたか。
丁度蜘蛛が林の入口の楢《なら》の木に、二銭銅貨の位の網をかけた頃、銀色のなめくぢの立派なうちへかたつむりがやって参りました。
その頃《ころ》なめくぢは学校も出たし人がよくて親切だといふもう林中の評判だった。かたつむりは
「なめくぢさん。今度は私《わたし》もすっかり困ってしま
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