はなさないなら一緒に行かうと相談しました。すると慶次郎はまるでよろこんで言ひました。
「楢渡《ならわたり》なら方向はちゃんとわかってゐるよ。あすこでしばらく木炭《すみ》を焼いてゐたのだから方角はちゃんとわかってゐる。行かう。」
 私はもう占めたと思ひました。
 次の朝早く私どもは今度は大きな籠《かご》を持ってでかけたのです。実際それを一ぱいとることを考へると胸がどかどかするのでした。
 ところがその日は朝も東がまっ赤でどうも雨になりさうでしたが私たちが柏《かしは》の林に入ったころはずゐぶん雲がひくくてそれにぎらぎら光って柏の葉も暗く見え風もカサカサ云って大へん気味が悪くなりました。
 それでも私たちはずんずん登って行きました。慶次郎は時々向ふをすかすやうに見て
「大丈夫だよ。もうすぐだよ。」と云ふのでした。実際山を歩くことなどは私よりも慶次郎の方がずうっとなれてゐて上手でした。
 ところがうまいことはいきなり私どもははぎぼだしに出《で》っ会《く》はしました。そこはたしかに去年の処ではなかったのです。ですから私は
「おい、こゝは新らしいところだよ。もう僕らはきのこ山を二つ持ったよ。」と言ったのです。すると慶次郎も顔を赤くしてよろこんで眼《め》や鼻や一緒になってどうしてもそれが直らないといふ風でした。
「さあ、取ってかう。」私は云ひました。そして白いのばかりえらんで二人ともせっせと集めました。昨年のことなどはすっかり途中で話して来たのです。
 間もなく籠《かご》が一ぱいになりました。丁度そのときさっきからどうしても降りさうに見えた空から雨つぶがポツリポツリとやって来ました。
「さあぬれるよ。」私は言ひました。
「どうせずぶぬれだ。」慶次郎も云ひました。
 雨つぶはだんだん数が増して来てまもなくザアッとやって来ました。楢《なら》の葉はパチパチ鳴り雫《しづく》の音もポタッポタッと聞えて来たのです。私と慶次郎とはだまって立ってぬれました。それでもうれしかったのです。
 ところが雨はまもなくぱたっとやみました。五六つぶを名残《なご》りに落してすばやく引きあげて行ったといふ風でした。そして陽《ひ》がさっと落ちて来ました。見上げますと白い雲のきれ間から大きな光る太陽が走って出てゐたのです。私どもは思はず歓呼の声をあげました。楢や柏《かしは》の葉もきらきら光ったのです。
「おい、こゝ
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