い料理店ですからどうかそこはご承知ください」
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「なかなかはやつてるんだ。こんな山の中で。」
「それあさうだ。見たまへ、東京の大きな料理屋だつて大通りにはすくないだらう」
 二人は云ひながら、その扉をあけました。するとその裏側に、
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「注文はずゐぶん多いでせうがどうか一々こらえて下さい。」
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「これはぜんたいどういふんだ。」ひとりの紳士は顔をしかめました。
「うん、これはきつと注文があまり多くて支度が手間取るけれどもごめん下さいと斯《か》ういふことだ。」
「さうだらう。早くどこか室《へや》の中にはひりたいもんだな。」
「そしてテーブルに座りたいもんだな。」
 ところがどうもうるさいことは、また扉《と》が一つありました。そしてそのわきに鏡がかゝつて、その下には長い柄のついたブラシが置いてあつたのです。
 扉には赤い字で、
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「お客さまがた、こゝで髪をきちんとして、それからはきもの
 の泥を落してください。」
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と書いてありました。
「これはどうも尤《もつと》もだ。僕もさつき
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