室はけむりのやうに消え、二人は寒さにぶるぶるふるへて、草の中に立つてゐました。
見ると、上着や靴や財布やネクタイピンは、あつちの枝にぶらさがつたり、こつちの根もとにちらばつたりしてゐます。風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
犬がふうとうなつて戻つてきました。
そしてうしろからは、
「旦那《だんな》あ、旦那あ、」と叫ぶものがあります。
二人は俄《には》かに元気がついて
「おゝい、おゝい、こゝだぞ、早く来い。」と叫びました。
簔帽子《みのばうし》をかぶつた専門の猟師が、草をざわざわ分けてやつてきました。
そこで二人はやつと安心しました。
そして猟師のもつてきた団子をたべ、途中で十円だけ山鳥を買つて東京に帰りました。
しかし、さつき一ぺん紙くづのやうになつた二人の顔だけは、東京に帰つても、お湯にはひつても、もうもとのとほりになほりませんでした。
底本:「宮沢賢治全集8」ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年1月28日第1刷発行
2004(平成16)年4月25日第20刷発行
初出:「イーハトヴ童話 注文
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