らゐの山奥でした。
それに、あんまり山が物凄《ものすご》いので、その白熊のやうな犬が、二疋いつしよにめまひを起して、しばらく吠《うな》つて、それから泡を吐いて死んでしまひました。
「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、その犬の眼《ま》ぶたを、ちよつとかへしてみて言ひました。
「ぼくは二千八百円の損害だ。」と、もひとりが、くやしさうに、あたまをまげて言ひました。
はじめの紳士は、すこし顔いろを悪くして、じつと、もひとりの紳士の、顔つきを見ながら云ひました。
「ぼくはもう戻らうとおもふ。」
「さあ、ぼくもちやうど寒くはなつたし腹は空《す》いてきたし戻らうとおもふ。」
「そいぢや、これで切りあげやう。なあに戻りに、昨日の宿屋で、山鳥を拾円も買つて帰ればいゝ。」
「兎《うさぎ》もでてゐたねえ。さうすれば結局おんなじこつた。では帰らうぢやないか」
ところがどうも困つたことは、どつちへ行けば戻れるのか、いつかう見当がつかなくなつてゐました。
風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
「どうも腹が空いた。さつきから横つ腹が痛くてたまら
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