チュンセ童子が申しました。
「早く流れでその傷口をお洗いなさい。歩けますか。」
 大烏はよろよろ立ちあがって蠍を見て又|身体《からだ》をふるわせて云いました。
「畜生。空の毒虫め。空で死んだのを有り難《がた》いと思え。」
 二人は大烏を急いで流れへ連れて行きました。そして奇麗《きれい》に傷口を洗ってやって、その上、傷口へ二三度|香《かぐわ》しい息を吹きかけてやって云いました。
「さあ、ゆるゆる歩いて明るいうちに早くおうちへお帰りなさい。これからこんな事をしてはいけません。王様はみんなご存じですよ。」
 大烏はすっかり悄気《しょげ》て翼《つばさ》を力なく垂れ、何遍もお辞儀をして
「ありがとうございます。ありがとうございます。これからは気をつけます。」と云いながら脚《あし》を引きずって銀のすすきの野原を向うへ行ってしまいました。
 二人は蠍を調べて見ました。頭の傷はかなり深かったのですがもう血がとまっています。二人は泉の水をすくって、傷口にかけて奇麗に洗いました。そして交《かわ》る交《がわ》るふっふっと息をそこへ吹き込みました。
 お日様が丁度空のまん中においでになった頃《ころ》蠍は
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