大きな乱暴ものの彗星《ほうきぼし》がやって来て二人のお宮にフッフッと青白い光の霧《きり》をふきかけて云《い》いました。
「おい、双子の青星。すこし旅に出て見ないか。今夜なんかそんなにしなくてもいいんだ。いくら難船の船乗りが星で方角を定《さだ》めようたって雲で見えはしない。天文台の星の係りも今日は休みであくびをしてる。いつも星を見ているあの生意気な小学生も雨ですっかりへこたれてうちの中で絵なんか書いているんだ。お前たちが笛なんか吹かなくたって星はみんなくるくるまわるさ。どうだ。一寸《ちょっと》旅へ出よう。あしたの晩方までにはここに連れて来てやるぜ。」
 チュンセ童子が一寸笛をやめて云いました。
「それは曇《くも》った日は笛をやめてもいいと王様からお許しはあるとも。私らはただ面白《おもしろ》くて吹いていたんだ。」
 ポウセ童子も一寸笛をやめて云いました。
「けれども旅に出るなんてそんな事はお許しがないはずだ。雲がいつはれるかもわからないんだから。」
 彗星《ほうきぼし》が云いました。
「心配するなよ。王様がこの前|俺《おれ》にそう云ったぜ。いつか曇った晩あの双子を少し旅させてやって呉《く》れってな。行こう。行こう。俺なんか面白いぞ。俺のあだ名は空の鯨《くじら》と云うんだ。知ってるか。俺は鰯《いわし》のようなヒョロヒョロの星やめだかのような黒い隕石《いし》はみんなパクパク呑《の》んでしまうんだ。それから一番痛快なのはまっすぐに行ってそのまままっすぐに戻《もど》る位ひどくカーブを切って廻《まわ》るときだ。まるで身体《からだ》が壊《こわ》れそうになってミシミシ云うんだ。光の骨までカチカチ云うぜ。」
 ポウセ童子が云いました。
「チュンセさん。行きましょうか。王様がいいっておっしゃったそうですから。」
 チュンセ童子が云いました。
「けれども王様がお許しになったなんて一体本当でしょうか。」
 彗星が云いました。
「へん。偽《うそ》なら俺の頭が裂《さ》けてしまうがいいさ。頭と胴と尾とばらばらになって海へ落ちて海鼠《なまこ》にでもなるだろうよ。偽なんか云うもんか。」
 ポウセ童子が云いました。
「そんなら王様に誓《ちか》えるかい。」
 彗星はわけもなく云いました。
「うん、誓うとも。そら、王様ご照覧。ええ今日、王様のご命令で双子の青星は旅に出ます。ね。いいだろう。」
 二人は一緒《
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