ていねい》にお辞儀《じぎ》をします。
 稲妻がぎらぎらっと光ったと思うともういつかさっきの泉のそばに立って居《お》りました。そして申しました。
「さあ、すっかりおからだをお洗いなさい。王様から新らしい着物と沓《くつ》を下さいました。まだ十五分|間《ま》があります。」
 双子のお星様たちは悦んでつめたい水晶《すいしょう》のような流れを浴び、匂《におい》のいい青光りのうすものの衣《ころも》を着け新らしい白光りの沓をはきました。するともう身体《からだ》の痛みもつかれも一遍にとれてすがすがしてしまいました。
「さあ、参りましょう。」と稲妻が申しました。そして二人が又《また》そのマントに取りつきますと紫色《むらさきいろ》の光が一遍ぱっとひらめいて童子たちはもう自分のお宮の前に居ました。稲妻はもう見えません。
「チュンセ童子、それでは支度《したく》をしましょう。」
「ポウセ童子、それでは支度をしましょう。」
 二人はお宮にのぼり、向き合ってきちんと座《すわ》り銀笛《ぎんてき》をとりあげました。
 丁度あちこちで星めぐりの歌がはじまりました。
[#ここから1字下げ]
「あかいめだまの さそり
 ひろげた鷲《わし》の  つばさ
 あおいめだまの 小いぬ、
 ひかりのへびの とぐろ。

 オリオンは高く うたい
 つゆとしもとを おとす、
 アンドロメダの くもは
 さかなのくちの かたち。

 大ぐまのあしを きたに
 五つのばした  ところ。
 小熊《こぐま》のひたいの うえは
 そらのめぐりの めあて。」
 双子のお星様たちは笛を吹《ふ》きはじめました。
[#ここで字下げ終わり]


   双子《ふたご》の星 二

(天《あま》の川《がわ》の西の岸に小さな小さな二つの青い星が見えます。あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星様でめいめい水精《すいしょう》でできた小さなお宮に住んでいます。
 二つのお宮はまっすぐに向い合っています。夜は二人ともきっとお宮に帰ってきちんと座ってそらの星めぐりの歌に合せて一晩銀笛を吹くのです。それがこの双子のお星様たちの役目でした。)
 ある晩空の下の方が黒い雲で一杯《いっぱい》に埋《う》まり雲の下では雨がザアッザアッと降って居《お》りました。それでも二人はいつものようにめいめいのお宮にきちんと座って向いあって笛を吹いていますと突然《とつぜん》
前へ 次へ
全13ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング