う。大内はよく降りて行く。急だぞ。この木は少し太すぎる。灰いろだ。急だぞ、草、この木は細いぞ、青いぞあぶないぞ。なかなか急だ。大丈夫だ。この木は切ってあるぞ。〔ほう、〕そこはあんまり急だ。
おりるのか。仕方ない。木がめまぐるしいぞ。「一人落ぢればみんな落ぢるぞ。」誰かうしろで叫んでゐる。落ちて来たら全くみんな落ちる。大内がずうっと落ちた。
河原まで行ってやっととまった。
おれはとにかく首尾よく降りた。
少し下へさがり過ぎた。瀑《たき》まで行くみちはない。
凝灰岩が青じろく崖と波との間に四五寸続いてはゐるけれどもとてもあすこは伝って行けない。それよりはやっぱり水を渉《わた》って向ふへ行くんだ。向ふの河原は可成《かなり》広いし滝までずうっと続いてゐる。
けれども脚はやっぱりぬれる。折角ぬらさない為《ため》にまはり道して上から来たのだ、飛石を一つこさへてやるかな。二つはそのまゝ使へるしもう四つだけころがせばいゝ、まづおれは靴《くつ》をぬがう。ゴム靴によごれた青の靴下か。〔一寸《ちょっと》待って、今渡るやうにしますから。〕
この石は動かせるかな。流紋岩だかなりの比重だ。動くだらう。水の中だし、アルキメデス、水の中だし、動く動く。うまく行った。波、これも大丈夫だ。大丈夫。引率の教師が飛石をつくるのもをかしいが又えらい。やっぱりをかしい。ありがたい。うまく行った。
ひとりが渡る。ぐらぐらする。あぶなく渡る、二人がわたる。
もう一つはどれにするかな、もう四人だけ渡ってゐる。飛石の上に両あしを揃《そろ》へてきちんと立って四人つゞいて待ってゐるのは面白い。向ふの河原のを動かさう。影のある石だ。
持てるかな。持てる。けれども一番波の強いところだ。恐らく少し小さいぞ。小さい。波が昆布《こんぶ》だ、越して行く。もう一つ持って来よう。こいつは苔《こけ》でぬるぬるしてゐる。これで二つだ。まだぐらぐらだ。も一つ要る。小さいけれども台にはなる。大丈夫だ。
おれははだしで行かうかな。いゝややっぱり靴ははかう。面倒くさい靴下はポケットへ押し込め、ポケットがふくれて気持ちがいゝぞ。
素あしにゴム靴でぴちゃぴちゃ水をわたる。これはよっぽどいゝことになってゐる。前にも一ぺんどこかでこんなことがあった。去年の秋だ。腐植質《フイウマス》の野原のたまり水だったかもしれない。向ふに黒いみち
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